本事務所は特定社会保険労務士の事務所です。

一言で言うと特定社労士とは「あっせん代理ができる」社労士なのですが、この社労士は警察官のようなモノでしょうか。

確かに法は守らなければならないのですが、法をもとに、双方ともに満足な結果を導くことに目的があります。「法を守らないとしょっ引くぞ!」というものではないのです。労務のもめ事とは、

民事裁判のように「勝った負けた」刑事裁判のように「悪いこと」の代償として刑罰、というものではないのです。白黒つけずに双方反省し、満足できるという一見都合の良いしくみは、社会保険、労働保険法の中では案外現実的です。高年齢雇用継続の賃金設計などはその代表的なものです。労使ともにハッピーです。

以下はこのカテゴリー「あっせん申請代理」の目次です。
◆「特定社会保険労務士」何者?
 「特定社労士」とは?   特定社労士の倫理問題 特定社労士の実践育成 特定社労士の「技術」

◆労使問題解決の「決まりごと」
 紛争解決とは?  社会権と労働問題  ADRの基本
 不適格な代理人  民事裁判の三段論法  民法の基礎事項 民法でその他注意する論点  主な労働判例ポイント
 民事訴訟法  労働審判法
 
◆あっせんの現実
 特定社労士の実態(上)  特定社労士の実態(下)

◆特定社労士試験
 特定社労士「集合研修」  特定社労士グループ研修 特定社労士試験
 特定社労士試験の実際 特定社労士試験合格!

どっちが悪でどっちが善という判断もさることながら、悪をもやっつけない、善でも疑ってかかる、という公平さを求めようとするならば、カタをつける「争いごと」は却って新たな争いを生む土壌になります。

政府や大掛かりな犯罪以外の、個人間の争いごとは、当たり前ですがエネルギーが要ります。そのエネルギーも、個人間である限り有限です。しかし人間ならば引き下がるわけに行かない、納得できないというココロがあります。

そこをどう妥協せしめるか、体力、気力、資力に精神力と、その全てを対象とした総力戦をどう終戦に持ち込むか、という技術ですね。法律と知恵を用いていかに感情まで切り込んだ妥協を目指すか、頭でっかちでもなく、清濁併せ呑むとも違った「法に則った調整家」の境地を目指そうと思います。

特定社労士「抽選合格」

特定社労士とは、来年度から始まる制度です。現在、労使紛争への介入は、弁護士でない社労士はあっせんのみできることになっていますが、来年からはこの「特定社労士」のみがやることになります。

この春からその講習と試験を受けるための抽選が始まり、私も応募しました。しかしこの第1回の応募は希望者が多く、見事に外れまして、4~6月の講習を受けられませんでした。

この抽選は批判が多く、社労士会にちゃんと会費を払うのはもちろん、役員まで勤めて真面目にやっている意欲の高い方まで落ちる、つまり門前払いされるという悲劇のハナシを方々で聞きました。

春の抽選に「落ちた」以後、「それでも応募する意欲があるか?」というハガキが来て、「大いにあります!」と返事を出して3ヶ月ほど経ったでしょうか。忘れた頃に昨日「ご受講が確定しました」という「抽選合格」の書面が来たのです。合格と勝手に称しましたが、要は研修の席を確保しましたよ、というコトです。

春は希望を持って、セミナーに行ったりして大いに勉強していたのですが、抽選に洩れて以後はご無沙汰でした。しかし俄然やる気が出ましたね!大いに特定社労士になってやるぞ!と奮い立っています。

その内容は社労士の専門である労働法関連の他に、倫理や憲法、民法が入ってきます。労働法関連も労働契約や労働条件、個別労働関連法制など、コンサルとしてよりは「仲裁者」としての性格の濃い勉強になります。

講義もただ聞けばいいというものではなく、グループ学習やゼミナールがあり、自分から意思を発信することを求められます。抽選から落ちた後出た、特定社労士の実態を知るセミナーなどの体験が生きると思います。

この夏からは人事制度作成の講習に出ますが、それが終わった後の目標はこの特定社労士試験です。顧客拡大が波に乗ってきた今、年末まで「戦時体制」が続きそうです。

特定社労士「集合研修」

特定社労士の集合研修です。教室でみんなでビデオを見るのです。

東京の会場は、コンパニオンの発進基地になるような場所ですが、渋谷の狭いペンシルビルです。そこに数百人の「先生」がたが押しかけることになりました。

コンパニオン控え室から出てくるコンパニオンも、湧いて出たオヤジの大群に顔をしかめています。何階にも分けた教室で講義が始まりました。午前3時間午後3時間、昼休み以外は休憩なし、構内飲食厳禁の過酷な研修です。

午前中は倫理です。社労士法22条(業務禁止事件)を中心に、弁護士の先生が親ができないボウズを諭すように「アレはダメコレはダメ」と教えます。結論は要するに倫理とは「社労士は弁護士の領域に入るな」ということでしょうか?

ホントはそういうことではないのです。「みんなに喜ばれる社労士」から「労使どちらかから恨まれる社労士」への心構えというべきでしょうか。

50分の昼食は、もう階段などラッシュアワーです。近くの松屋、吉野家も先生方で押すな押すなの満杯で、大遠征してきました。戻るのもまた一苦労でした。午後は憲法です。

さすがにこちらは法律講座で、大学の先生が講師です。新しい発見が結構ありました。例えば、

○日本国憲法成立は「革命」である!
○外国人でも政治を批判したらやっぱりマズイよ。
○人権保障は個人間より大組織との間が問題。

いろいろありましたが、特に社労士のためにセレクトされたものは、「自分で決めなさいよやりなさいよ」という自己責任を前提とした法律が多い感じがしました。他の表現の自由、経済的自由など「学生時代にこれだけコンパクトにやってくれれば」と思うほど分かり易かったです。

講義は字の羅列を忠実になぞり、解説していく感じです。根気が要りますし、休憩がないと、エコノミークラス症候群になりかねないような感じです。しかし先生方は3時間もの間みんなあまり立ちません。真剣なのですね。

特定社労士グループ研修

あっせんのイメージ
特定社労士講座が始まり、3週間が経ち、一方的な授業から「グループ研修」が始まりました。10人ほどが集まって、テキストに書かれた課題について検討し、「あっせんチックな考え方」を目指して論議するのです。

グループは私が一番年下のように見えました。ジム組を抱える先生、「鋼鉄のバリトン」講師の先生と実力者揃いです。彼らはスゴイの一言です。外見は普通のヒトなのに、法律の条文に関する知識がスラスラと出てきます。

要は知識に立脚した知恵を出せ、ということですが、何しろ開業して何十年の大先生の百鬼夜行です。門前の小僧にはいささかキツイ状況です。ようやく後半に特定社労士の講座の資料を出して貢献できましたが、ハナシのレベルが違うのです。

ただし大先生が集まっても、それだけでは試験の出来には貢献しないでしょう、というのは、

あっせん自体、何らかの結論(判決)を得るものではないからです。司会の先生はあっせん歴4年のこの世界のベテランですが、決して「仕切り」ません。グループが自由闊達な論議をするように仕向けているのです。

大先生の実務の話は面白いのですが、その実務をいかに問題解決に生かす目的は、確定判決を出すものではないのです。いかに決めたところで、法律違反だったりとか、あるいはお客さんを裏切るものであってはどうもならないわけです。

ですから結論は「あれもよしこれもよし」ということになります。あっせん申請書を共通のテーマで書いてきましたが、労働者の側に立つもの、事業主の方を持つもの、いろいろで、その全てが「正解」なのです。何しろ大先生の論議ですからスキはありません。

いや、それにしても講義の時もそうでしたが過酷な研修です。3時間一応休憩なしですし、一晩で事例に基づいてあっせん申請書とそれに対する答弁書を書いて来い、しかもお手本は余りありません。こうと決まったフォームなどは用いずに自由に問題解決をしなさい、というイメージで夜更けまでかかって皆さん寝不足のようでした。

「特定社労士」とは?

「特定社労士」という名称を聞いたことがあるでしょうか。2007年度から導入された新しい社労士制度のことです。これまでは社労士は、労働紛争の現場には出られなかったのですが、「特定社労士」は紛争の現場に出ることができます。どんなことができるかといえば、

1、紛争に関する相談。
2、使者、補佐人として事前交渉できる。(代理人はダメ)
3、書類の説明をすること。(あっせん開始前なら、特定社労士でなくても可)
4、あっせんや調停開始の陳述や陳述書の作成。
5、手続業務における代理人手続。
6、和解交渉(解決機関の手続開始~終了まで)
7、委員に、案の提示と諾否や取下げなどを通知する。
8、解決機関の手続による和解契約を締結すること。(勝手に和解契約を作るのは×)
9、紛争解決手続きが中止の場合、裁判所などへ書類を届けること。

要は、以下の役所が何かやっている間だけ、代理できるよ、ということです。

・紛争調整委員会…あっせん代理人
  男女雇用機会均等法は…調停代理人
・労働委員会…斡旋代理人(ひらがなではない)
・認証紛争解決事業者…和解代理人(仮称)

役所それぞれによって微妙に代理人の名前が違いますが、特定社労士の仕事の95%以上は「あっせん代理人」になることは確かでしょう。いわゆる個別労働紛争解決促進法なるものに基づく都道府県の紛争調整委員会を通して行われるあっせんです。

労働委員会は集団的労使関係紛争でのことで、これも都道府県別に47個置かれています。

男女雇用機会均等法は機会均等調停会議の調停のことです。事案によっては紛争調整委員会のものより効く場合があります。

認証紛争解決事業者は、具体的には社労士会や各種労働相談センターなどが認証の希望を持っています。しかし認証されればここでも特定社労士が活躍することになるでしょう。しかし紛争の目的価額は60万円までです。それ以上は「裁判所行け!」となります。

特定社労士試験の実際

この1年、散々待たされたり驚かされたりした特定社労士の試験がありました。

これまでみっちり本を読んで、シケ対としてテキストに情報を集約しました。各場面における「要件事実」をまとめて繰り返し見ました。この要件事実というのは例えば管理監督者になるべき要件事実ならば、

○ 経営に関する決定に参画する権限や労務管理に関する指揮監督権がある。
○ 自分の勤務時間について自由裁量権を有している。
○ 基本給、役職手当等がその地位にふさわしいものである。
○ スタッフ職の場合、経営上の重要事項に関する企画立案などの部門に配置されラインの管理監督者と同格に位置づけられる扱いを受けている。

というような、こういう条件なら管理監督者になるよ、というものです。試験では事例が出て、それにこの要件事実を当てはめてどうするか論じる、というイメージでした。午前中の倫理の授業を経て、午後はいよいよ試験です。

しっかり準備した「要件事実」など吹っ飛びましたね。

久々の筆記試験で、しかもボールペン以外持ち込み禁止です。つまり肉付けや訂正がおいそれとできないということです。問題用紙があるのを幸い、これに下書きをして最後の30分で写そうと目論見ました。

ところが全7問の記述問題のうち、3問下書きを書いたところで半分終わってしまいました。こんなところで写しながら文章を練るヒマがなくなりました。3問大急ぎでほとんど修正なしで写して、あとの4問は直に答案に書きながら考えることにしました。

それにしても筆記試験というものは手間が思ったよりかかります。250字、200字などという字数制限もありましたが、いや「要件事実」などは考えて搾り出す時間もありません。制限をはみ出すと言われていましたが、却って字数が埋まらなくて困りました。

書くこと埋めることに主眼が行ってしまい、誤字も訂正もありませんでしたが、法律論もクソもないような答案に見えます。ボールペンをダダダダッと撃った感じです。

もっともこの試験は法律の暗記試験でも、理論のガリ勉をして受かるというものでもなく「考え方」を量ると言われていますから当然でしょう。これほど「準備」が無駄に終わった試験も珍しいです。今まで講義を聞いてゼミに参加したその「感覚」を信じるしかありません。

紛争解決とは?

特定社労士は、紛争の解決場面まで進出してくる社労士です。そこで、では特定社労士の扱う紛争解決ってなあに?という知識が必要になってきます。

社会共同体の紛争解決とは…法による解決ではありません。基本的人権を優先的に押さえ、民主的原理を働かせて極力平和に解決しようというものです。

基本的人権とは…押さえてないと「形式的民主主義」となって、独裁国家のようになります。

民主的原理とは…
1、関係者の情報を伝える
2、様々な意見を出し合う
3、建議を繰り返す
4、より良い方法が見つかる

というパターンです。ではこの原理と相反する世界で、「紛争解決」の方法を浮き出させてみましょう。

それは「世間体」というものです。「世間さまをお騒がせして…」「世間体が悪い」の世間体です。社会共同体と世間体は紛争解決の方法が違います。世間体の紛争解決とは…
1、証人証拠優先主義:証拠や証言で安易に犯人を決め付けようとする態度です。⇔証拠証人は「裏付けるもの」であっても、判断の決定的な要素からは排除されています。
2、大声決意表明主義:大声を出した方が勝ち、というものです。
3、騒動玉砕主義:何かモメゴトがあると「辞めさせてもらいます!」「出るところへ出るぞ!」などと相手を恫喝する方法です。
4、放置穏便主義:形式的な平和を維持し、弱者を犠牲にした強者を守る風潮です。

これらの「世間体」手段は平和的な解決制度がない時代は主流でしたが、経済的に豊かになり、身分区分を重視しなければ秩序維持ができないこともなくなり、余裕も教養もある現代人にはアホたらしいこととして認識されています。

特定社労士もこういう昔ながらの紛争解決手法を批判し、克服しておく必要があります。いくら頭が良くても、安くても、便利でもダメで、紛争を解決するには社会共同体文化・習慣・教育・価値観が重要ということです。

社会権と労働問題

このテーマは労働基準法とか、組合法といった法律は枝葉の問題です。歴史の重い事実が物語るものです。特定社労士は基本的人権の一分野、社会権に基づいて紛争解決業務を行います。

社会権とは自由・平等の社会共同体において、社会での立場上で弱者の自由・平等を確保する権利です。法律の枠内のみの概念でもないし、事業主と労働者の間に介入して紛争を解決する権利でもないのです。

だから特定社労士制度はあくまで、国家政策としての社会権充実のために、紛争解決機関の中での専門代理人制度なのです。

日本の社会権とはどういう過程で成立してきたでしょうか?

1、電産型賃金体系(1947年)=年功序列型賃金です。さらにこれは、理論生計費を基礎とした生活給賃金です。戦後間もなくできた日本電気産業労働組合の作った労働者の賃金決定に関して確立された社会権です。
2、近江絹糸争議(1954年):労働基準法が最低基準だという社会権が確立しました。
3、日鉄室蘭争議、三井三池炭鉱争議(1954、59年):「突然の指名解雇はできない」、また希望退職の応募がないからといってそれを理由に解雇はできないという社会権が確立しました。

これは早期のごく一部の歴史ですが、どういうものが社会権かというものが理解できると思います。もっともこれらの権利は獲得されるものばかりでなくて、時代の推移とともに良いものでもなくなってしまうこともあります。

ADRの基本

ADR=裁判外紛争処理とは、文字通り、裁判システムにあえて乗せない紛争解決処理のための制度をいいます。特定社労士のあっせん制度は労働分野における裁判制度がほとんど機能していないところから、紛争調整委員会によるあっせん制度に付け加える形で設けられたADRの一種です。

つまり、裁判所の判断が個別企業の中で通用しないほどに労働裁判機能が形骸化したのです。いわゆる「普通の訴訟」というものは…
1、100対0の勝ち負け : 労使紛争は勝った負けたで割り切れない。
2、要件事実主義 : 当事者が持っている様々な条件を切り落としてしまう。
3、小前提の事実→大前提の法規範→判決という3段論法 : 筋書き通りでないと機能が作用しない。
4、自由意思の上に成り立つ : 労働紛争は「潜在意思」
5、請求権に成り立つ : 請求しなくても自然に生ずる権利も存在する。

この通りいろいろ問題がある訴訟に対し、ADRというものは、

訴訟の「対決」に対し、「調整」ということなのです。同意は法律に、和解は判決に勝るという概念を目指して行われるものです。

ちなみにセクハラ事件についてはあっせん制度の方が有利な結論を引き出せることが多いです。法廷では弁護士同士がアラ探しをすると、円満な解決が図られにくくなったり、セカンドレイプまがいのことが起きるからです。あっせん制度では当事者同士が会うことはありません。会えば感情がこみ上げ、これまた問題をこじらせてしまいます。

要するに
裁判は「取引」 : 利益のとりわけ、当事者それぞれにとって有利なケース設定つまり勝負!ということ
あっせんは「妥協」 : 自己主張を十分に行った歩み寄りつまり痛み分けということ
なのです。

訴訟上の和解は「取引」の延長です。刀折れ矢尽きたところで裁判官が持ち出しますから時間がかかるのです。あっせんは精神的負担や不満をかけずに、なるべく迅速に「妥協」を図る制度なのです。このことは労使双方に「経済効果」もあります。「取引」に経済効果はありません。

裁判はカネも時間もかかります。その両方ともかからず、プライバシーが守られるあっせん制度は、労働者側のみならず、事業主にとっても「待ちに待った」制度だったのです。

特定社労士の倫理問題

社労士は「倫理」を守らなければならない!といわれた場合、この「倫理」とはいかなるものでしょうか。また、試験でどうして倫理が必要なのか、また専門家としてどういう態度であるべきかというのはどうでしょう。特に自分の顧問先、クライアントにかかる事件が重要です。

「倫理」の定義についてはいくつか見解があります。
1、法律違反≠倫理問題
社労士法で定めている当事者の利益の保護、職務遂行の公正性確保や品位の保持などは、懲戒処分対象であって、倫理問題ではありません。
2、禁止業務
「相手方協議済み事件」 : どちらか一方の肩入れをあらかじめしておくことはダメ。
「利害相反事件」 : 自分のクライアント、対、他のクライアントのような事案はダメ。
「依頼者相手方事件」「相手方依頼事件」 : やっている以外の他の件に首突っ込んじゃダメ。

「倫理」は特定社労士になぜ重要でしょうか?

1、ノウハウの確立、蓄積 : 事実→真実→証拠→手続というパターンを踏んでいるかどうかの迅速なチェックのために必要。
2、最低水準の確保、公共の福祉に役立てる : 特定社労士の「ここまでやってくれる」という概念の普及。
3、万が一の不都合に具体的な基準を策定する : 不都合は明らかにし、今後の改善に繋げるという姿勢の涵養。

専門家としての態度は? 
1、「言われた通りしました」ではダメ : 時間を取って、なるべく相手の相談に乗る。
2、事件の本質を見落とさない : 事件の法則性をつかむため、事例研究を怠らない。
3、素人のいうことを鵜呑みにするな : 「中身のない専門家」にならないように。
4、見かけで判断するな : 話を良く聞くところから始めるべし。
5、仕事にムラがないように : 標準化した流れ作業の構築のため、実務の技能ノウハウを積むべし。
6、ウソと伝聞と事実 : 見抜くことより、それらが良心につながっているかどうかが重要。
7、インフォームド・コンセント : 「依頼人に対する説明と情報を与えた上での了解」を基本とする。

不適格な代理人

特定社労士はいわば、依頼人の代理人ですが、これに不適格な代理人は当然存在します。

1、依頼人を裁いてしまうヒト : 貴方は間違っている、この部分は法律違反、と、裁判官でもないのに勝手に判定してしまい、しばしば依頼人の人格や行為まで判定してしまう場合。
2、役所の犬 : 「公務員からの自由平等」を当事者間に保障しましょう。
3、時間給目当ての労働者 : パートタイマーではなく、訓練に基づくひらめきのような仕事ですから、労働者的な仕事は期待されていません。
4、専門家の先生 : 勉強するのは当たり前。しかし何もかも自分の専門分野に持ち込もうとする姿勢は非現実的で、依頼者から嫌われます。
5、使い捨て代理人 : できない理由の知識のみかき集める人になっては、仕事だと割り切って使い捨てされます。

こういう「代理人」に陥らないためには、

1、依頼人の真の利益を守る努力義務、善管注意義務、非中立姿勢を認識する。
よじれた心理状態を理解するために、依頼人からの判断の独立性を保つ必要があります。さらに、感情的な不毛で空虚な自信を取り除くことが必要になります。そのためには質問も指摘も厳禁です。
裁判官や評論家 : 表面的な中立性 代理人 : 「なだめる作業」を行う
という違いがあります。「代理人の立場は中立」という言葉は依頼者にとっては「裏切られた!」です。

2、近代の自由平等概念や公序良俗について認識する。
特定社労士の仕事は、良心に基づいて、社会正義のために公序良俗に反しない行為であることです。さらに依頼人の経済的利益は自由平等の権利義務に言葉の転換のできることが条件です。

3、広い視野での抜本的姿勢と倫理問題
「社労士は会社の味方」というイメージがあれば、労働者側は依頼して来ません。また、労働組合相手なら、労働組合の役員が代理人行為が行えますので、特定社労士は不要です。ここでは使用者側に限られた需要になります。

特定社労士試験

特定社労士の試験は以下のような流れです。

1、専門家の責任と倫理(講義3時間、グループ研修9時間、ゼミ5時間)
2、法体系の中での労働関係法の制度と理論(講義22時間)
3、法制の専門知識(講義5時間、グループ研修9時間、ゼミ5時間)
4、紛争解決の実務(グループ研修9時間、ゼミ5時間)

グループ研修はどう円滑に進めるのかというところでまだ問題があるようですが、講義とゼミは憲法、民法、労使関係法、労働契約法、労働条件法、個別労働関係紛争解決制度など、一連の法令を講義するものです。

以下、個別にどういうことを学べば良いかというと、

1、専門家の責任と倫理 : 特定社労士には代理権がどのような形で認められているかの権限についての学習です。権限と倫理はワンセットで、職業倫理規範の問題です。

2、法体系の中での労働関係法の制度と理論 : 憲法と関連法律の制度・理論の知識を学びますが、知識として知っているだけでなく、応用レベルまでの記述が求められます。

3、法制の専門知識 : 基本的な法的知識から「物事の考え方」までを習得します。ケースメソッドによる授業もありますが、試験の水準に達するには、自前で学習し、訓練することが必要です。

4、紛争解決の実務 : 具体的な主張・陳述や資料の提示の手続方法を学び、それを実際の相談業務に取り入れ、あっせん解決のノウハウとしての内容を評価されます。

特定社労士の実践育成

これは、
○ 体系的な考え方をするべく
○ 論述能力を持つべく

育成することです。これらはケースメソッド、ディスカッション、ロールプレイングなどがあります。様々な労働判例の知識情報を得ながら、方法と判例の底にある思想を持って、体系的な考えや論述力を磨くのです。

労働判例は、まだまだ「労働問題を余すところなく網羅し尽くした」というには程遠い状態です。ですから新たな問題にぶつかったときに役に立つ脳内の「ソフト」が必要です。特に、フェアではない取り扱い(アンフェア・トリートメント)への賠償、謝罪、回復、慰謝料などは判例がありません。こういうことに対応できるスマートな知恵が出せる訓練が必要です。

さてまず、ケースメソッドは、

これは能力担保カリキュラムにはありません。しかし最後の試験には体系的な論述スキルを必須としています。そこで自己学習が必要になります。知識を体系的に整理して論述能力として身につけ、他人に話すことで実践します。

大事なことはケースとは読んで学ぶものではなく、登場人物になり切って解決にはどうしたら良いか考えることです。知識偏重主義にならないように体系的な考え方や論述能力を磨くことなのです。

ディスカッションでは、新しい事態の新しいルールを作ることや、対立を解消するルールがないと「世間体」的解決を強める結果になります。良きリーダーとルールを持って研修を進めなければならないのが難しいところのようです。

ロールプレイングでは、実際の流れに沿って事業主側、労働者側、あっせん委員の3者に分かれて行います。気をつけることは決して「足して2で割る」方式ではないということです。あくまで当事者の自主的な解決を探るものであることに注意しましょう。

特定社労士の「技術」

「技術」とは、いかにして円満な解決に持っていくか、という術です。そのためにはこれまでの労働判例の考え方を概括して加工し、新しいあっせん方法のやり方を考える必要があります。いくつかの考え方があり、理解する必要があります。

①賃金はなぜもらえるか
・法規説 : 賃金の支払は規定であり、雇用契約締結のときに定まる。
・合意説 : 当事者の合意によって直接発生する。「約束は守るもの」という考え方。
の2つがあります。民事裁判実務では「法規説」が採用されています。ここから日本の法曹養成の基礎理論たる「要件事実論」に繋げることによって、日本国内の社会の法律スキルが身に付きます。しかしこの要件事実論だけでは視野が狭いと言います。「労働事件に要件事実はあってなきが如し」です。その時点での要件事実や、法の要件事実の理解だけでは失敗します。

②真実をつかむ技能
良心というのは、社会内で約束を守ったり、ウソをついたりしないという当然の約束事ですが、これに基づかない規定を遵守する集団もあり、また、特殊な世間体を基準とする業界もあります。それを踏まえて以下のような段階を踏みます。
1、事実があったか
2、論理的証明ができるかどうか
3、その説明に証拠があるかどうか
加害者、被害者、関係者から事情を聞きます。しかし世間体に基づく解決心理が出たときには、隠ぺい工作が出てくるので注意します。たとえ依頼人が不利になっても、依頼人を裁いてはいけません。あくまで依頼人の味方を貫きましょう。

③あっせんは訴訟とどう違うのか
人事労務管理方針の目的に合わせて、研究することによって訴訟との差別化を図れると言います。経験のみでも技能の向上は図れません。

④労働経済
労働者側の主張の底流に流れるものです。現在でも意外に浸透しています。
労働価値学説:世の中の価値を作るのは労働者だ!という説。
搾取と略奪:搾取は、労働した成果と賃金は等価交換されないという説のもと。収奪は経済状態ではなく、強制や誘惑その他の経済以外の手段で奪い取られることをいいます。
労働と労働力:「力」がつくと、ただ働くことに能力がプラスされます。労働力は売買の対象になりますが、労働は売買の対象になりません。
賃金とは:=生活+住居+次世代の育成+研究+技能習得までを含む「再生産費用」です。この相場は需要と供給で決まります。

民法でその他注意する論点

○代理 : 本人自身が意思表示したのと同じ効果。使者は伝達だけ。私的自治を拡張・補充するため代理人を認めます。

○時効 : 不法行為の消滅時効は3年。これをどう覆すかが焦点になります。紛争解決の手段に時効という要素は、ケンカを売るようなものなので用いない方が良いです。労働問題では、長期間の時間の経過で資料や記憶がないことを主張する必要があります。

○信義 : 不誠実な扱いは「信義則違反だ!」というものです。非正規社員の増加による信頼関係の崩壊と紛争の増加の原因です。

○職権濫用 : 懲戒解雇事件でこういうことが多くなります。民法に含まれていたわけではないのですが、これが元になって男女雇用機会均等法ができました。解雇事件や労働条件変更、個別の労働契約の更新や改定を巡って職権濫用が問題になってきます。

○公序良俗 : 「それは常識では考えられないんじゃないの?」というようなことです。犯罪、基本的人権に反する行為、不正な取引などは、アンフェア・トリートメントは公序良俗違反として取り扱われる可能性があります。

○債権債務 : 不明瞭なものを確定させることも含みます。賃金や退職金の支払で出てくる概念です。

○債務不履行 : 安全配慮や就業環境の整備、競業禁止業務など、現在のところは不法行為法になっていても、契約法に追加されるものになっています。

○善意と悪意 : 知らないことは善意、知っていることは悪意といいます。

○使用者責任 :  使用者は被用者が事業の執行において、第3者に加えた損害を賠償しなければならないということ。報償責任と危険責任があり、使用者から被用者には「信義則上妥当な限度」で求償を制限するもとになります。

○瑕疵 : 労働問題では、過失による空白や、責任の所在が不明な場合に用いますが、法律用語としては様々な意味合いを持ってきます。

民事裁判の三段論法

民事裁判の判決文は、これまでの事件の集大成というべき「作品」です。その構成は三段論法です。

1、法律ではこうなっている
2、事実はこうだ
3、両者を突合せ、だから結論はこうだ
というものです。

大星ビル管理事件という事件がありました。宿直仮眠時間は労働者が労働していなくても労働時間に当たるかどうかという事件です。ここでの三段論法は、

1、労働基準法でいう労働時間とは、労働者が使用者の拘束下にある時間(いわゆる拘束時間)のうち休憩時間を除いた時間、つまり実労働時間をいいます。
2、ところで本件には次の事実が認められる
 ・(いろいろ列挙)
3、よって、本件請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文の通り判決する。

とこんな具合です。特定社労士のあっせんは、主張の違うところを黒白つけるようなものではないので、法律ばかりチェックしているとワケが分からなくなります。法律違反だ!ということではなく、事実を書く!ということで論述方法を見るのです。何しろ社長さんに一方的に法律を説いたところで怒られるのがオチです。

再来年度からはじまる特定社労士制度は、これまで行われてきた「あっせん」と同じわけには行かないようです。講師に当たる弁護士ですら良く分かっていないので、数年前に行われた社労士の「司法研修」では教わったことを実際やってみたら、突き返しを食らった、などということもありました。

誰かが新しい「あっせん」のやり方を教えてくれるわけには行かず、社労士が自分で創造しなくてはならないようです。

主な労働判例ポイント

これは分野別に見ていきましょう。大分端折って、軽く書いています。
就業規則の不利益変更
1、御国ハイヤー事件:一方的な退職金規程の廃止はダメよ。
2、香港上海銀行事件:既に確立している退職金請求権は覆せない。
3、第4銀行事件:就業規則の変更の合理性の確立

配置転換
1、東亜ペイント事件:同意なしの転勤グー。しかも高度の必要性なしでグー。
2、日産自動車村山工場事件:長期同職種の人を配転するのは有効。

転籍出向
1、日立製作所横浜工場事件:転籍は労働者の同意・承諾必要。

在籍出向

1、日東タイヤ事件:出向は就業規則に明確な規程必要。
2、新日本製鉄グループ内在籍出向事件:在籍出向に個別同意不要。

懲戒処分
1、ダイハツ工業事件:会社の懲戒権も、止むを得ない場合には濫用にならない。
2、炭研精工事件:労働者は入社するとき、ホントのことを言わないとダメよ。
3、フジ興産事件:懲戒は就業規則で定めているものでなければならない。

解雇

1、日本食塩製造事件:合理的な理由のない解雇ダメよ。
2、高知放送事件:具体的事情によっては、解雇ダメよ。

整理解雇
1、東洋酸素事件:整理解雇の4要件確立。
2、あさひ保育園事件:指名解雇は相当ヤバイよ。
3、奥道後観光バス事件:狙い撃ち解雇もヤバイよ。

採用内定の取り消し
1、大日本印刷事件:採用決定後、やっぱりヤバイからやめた、はダメよ。
2、電電公社近畿電通局事件:起訴猶予処分発覚で内定取り消しは有効。
3、パソナ事件:仕事がないのに仕事を紹介してはダメよ。

雇止め
1、東芝柳町工場事件:臨時工でも契約の反復更新は常用雇用。
2、日立メディコ事件:人員削減のための労働契約更新拒否は適法。
3、丸子警報器事件:長期反復契約は整理解雇の4要件考えましょう。

退職勧奨
1、下関商業高校事件:しつこい退職勧奨は損害賠償。

安全衛生
1、陸上自衛隊八戸駐屯地車両整備工場事件:雇用に限らず使用者は安全配慮義務を負っている。
2、川義事件:安全配慮義務は具体的な状況によって、適用されることがある。
3、電電公社帯広局事件:業務命令服従は合理的で就業規則に記載されている限り有効。
4、電通過労自殺事件:使用者はうつ病にならないようにしなきゃダメよ。

民事訴訟法

民事訴訟…私人間に発生する民事紛争のうち、自主的解決のできないものについて裁判所で行われる手続です。但しその考え方は、特定社労士が扱うものとは大きな違いがあります。

処分権主義 : 原告の訴えた範囲内で訴訟が開始されること⇔範囲以上のこともありうる。
弁論主義 : 原告と被告が主張しないと裁判所は取り上げないこと⇔職権事実調査がある。
攻撃と防御 : 法律上の陳述、証拠の申し出。対決が避けられない

ではその流れです。

訴えを提起 : 訴状を作成し、添付書類を添付し、手数料を払います。訴状が被告に送達されて、判決手続で審判されるという「訴訟継続」が生じます。

答弁書 : 請求の趣旨や請求の原因について認否を記載する。容認したら直ちに判決。

口頭弁論と準備書面 : 裁判は口頭弁論=準備書面。実際は準備書面の直前提出が戦術。

弁論準備手続 : 法廷でなく、審尋室で行われます。争点と証拠の整理を目的とし、実際の裁判と余り異なりません。

証拠方法 : 書証、鑑定、証人、当事者本人が裁判官が取締りできます。

和解 : 訴訟継続中に終了の合意をすること。和解の理由はないので、弁論されることもありません。

取り下げ : 判決確定前ならいつでもでき、一部についても行えます。

判決 : 普通の判決に、訴訟要件が整わないと、「却下」、確認判決、給付判決、形成判決があり、時効期間は10年です。

反訴 : 併合審理を求めて、原告に対する訴えを提起することです。損害賠償の相殺を狙うときなどに使います。

労働審判法

労働審判は、れっきとした「裁判」です。あっせんのように話し合いの方向性を示すと言うより、はっきりと「良し」「悪し」を判定します。これまでの時間がかかった労働裁判が時間短縮し、裁判上で和解することにもなる制度です。

あっせんとの違いは、いくつか大きいものでは、
1、場所  :あっせんは紛争調整委員会ですが、審判は地裁で行います。
2、代理人 : 絶対弁護士です。
3、審理の流れ : あっせんは陳述を聞いて、証拠を提出します。審判は陳述、証拠提出の他に争点の整理があります。
4、審理の回数 : あっせんは1回、審判は3回
5、効力 : あっせん=民法上の和解(強制執行なし)審判=裁判上の和解。
なお、新しい注意点は、

1、個別的労働関係の民事法 : 労働契約法ができて、変わってきます。
2、代理人に労組専従も可能 : 労働組合の専従者も代理になれます。
3、職権事実調査 : 裁判官の職権で調査が行われます。これはあっせんでは不要で、資料提出も任意です。

こういう感じの法律ですが、現実はこれは弁護士の専売特許で、社労士や司法書士などは介入できないようになっているそうです。そういうことなら仕方ないかもしれません。あっせんという○×をはっきりしない解決方法を社労士がいかに秩序立て、発展させていくか、これは判例の積み重ねしかないようですね。

特定社労士試験合格!

特定社労士の試験に合格しました!去年の今頃は第一回の講習「権利」を獲得できるのだろうか、などと心配していましたが、第二回の権利獲得→講習→試験→合格と順調に積み重ねることができました。

さて今後ですが、この成果を業務に取り入れていきます。一言で言うと特定社労士とは「あっせん代理ができる」社労士なのですが、この社労士は警察官のようなモノでしょうか。

確かに法は守らなければならないのですが、法をもとに、双方ともに満足な結果を導くことに目的があります。「法を守らないとしょっ引くぞ!」というものではないのです。

民事裁判のように「勝った負けた」刑事裁判のように「悪いこと」の代償として刑罰、というものではなく、白黒つけずに双方反省し、満足できるという一見都合の良いしくみは、社会保険、労働保険法の中では案外現実的です。高年齢雇用継続の賃金設計などはその代表的なものです。労使ともにハッピーです。

どっちが悪でどっちが善という判断もさることながら、悪をもやっつけない、善でも疑ってかかる、という公平さを求めようとするならば、カタをつける「争いごと」は却って新たな争いを生む土壌になります。

政府や大掛かりな犯罪以外の、個人間の争いごとは、当たり前ですがエネルギーが要ります。そのエネルギーも、個人間である限り有限です。しかし人間ならば引き下がるわけに行かない、納得できないというココロがあります。

そこをどう妥協せしめるか、体力、気力、資力に精神力と、その全てを対象とした総力戦をどう終戦に持ち込むか、という技術ですね。法律と知恵を用いていかに感情まで切り込んだ妥協を目指すか、頭でっかちでもなく、清濁併せ呑むとも違った「法に則った調整家」の境地を目指そうと思います。

私は歴史上の人物としては外務大臣が好きですが、その交渉に似ています。国益を目指しますが、未来を見据えた引く交渉もし、必ずしも強国や大衆に媚びない最善の判断を行った彼らのような、大きなココロの結果を出したいですね。

特定社労士の実態(上)

特定社労士の実践的な業務を学ぶセミナーに参加してきました。実際の労務問題をプロの役者さんを使って、実演してもらい、その矢面に立つというロールプレイングです。

7~8人の班に分かれて、それに役者さんが1人ずつついて、労務問題の当事者を演じます。我々社労士はその問題の落としどころに向けてなるべくそっちに持っていく、という感じで相手のハナシを引き出し、また問いかけます。

第1話でさっそく相談される社労士の立場に立候補し、相談者に答えます。ここで今まで学んだ心理学やコンサルその他の学習を生かして、いい落としどころに持っていくぞ、と意気込んで始めました。

シチュエーションは、派遣社員2名のうち、1名を取り立てなければならなくなり、その外れた1名が「セクハラを受けた」と噛み付いているという図です。

こういうところでは「傾聴」がモノを言います。ひたすら聞けという教えどおり、聞くのですが、相手もさる者で、結構挑発するような質問を投げかけてきます。とにかく「自分はちっとも悪くない。こんなヤツをどうして罰してくれないのか」という論調で来るのです。

こういうところでは「傾聴」がモノを言います。ひたすら聞けという教えどおり、聞くのですが、相手もさる者で、結構挑発するような質問を投げかけてきます。とにかく「自分はちっとも悪くない。こんなヤツをどうして罰してくれないのか」という論調で来るのです。

「傾聴」の論理でいくと、相手には反論してはならないということになりますが、無茶苦茶なことまで認めていると会社のためにならないという意識が先行して、どうしても「いや、それは」などといってしまうのですね。役者さんは非常にうまく、涙まで浮かべてやるところは大変リアリズムでした。

しかしそこまでやられると、会社を守るのと、この相談者に合わせなくては、という意識とが拮抗して何も言葉が出なくなる恐れがあります。この役者さん女性ですが、女の涙はたとえ演技と分かっていても難しいです。それを否定すれば役者さんじゃなかったら切れて問題解決もクソもなくなります。しかし肯定しても、「では会社が全面的に悪い」となっては、何のための相談者かということになります。

要するに聞いて何となく分かるのと実際やるのとでは大違いだということですね。ロープレはとにかく続けましたが、もう「散々な」目に遭った感じがしました。実際「聞く」コトは単に音楽を聴くとか、講演を聴くとかそういうものではないのです。いかにうまく応対し、コミュニケーションするかが問題なのです。

15分続けて先生が答えを出しました。(下に続きます)

特定社労士の実態(下)

労務相談の被相談者としては、一番の態度は、「今日は話を聞かせてください」ということです。反論は絶対にダメなのです。なぜかというと、感情と建て前は一致するわけがない、ということです。みんな格好いいことが良いに決まっていますが、気に入らないという感情はそれより強かったりします。

上手に聞いてあげるということはどの労務問題でも同じです。そのためには事前に会社と「ここまで私に権限もらえますか」ということを相談して、発言の自由を確保しておく必要があります。会社のためにならないことを言うというハッタリもあるでしょう。感情は理屈を出しては収まらないのです。

とにかく聞く能力というのはスピーチの一方的な能力とは別のようです。

また、相談の際、相談者の言うキーワードというものもあります。
「本当はイヤだったんです」 : そのときは同意していたのに、ここへ来ると自分の立場を良くするため否定する態度。
「誠意を見せろ!」 : これが一番怖いです。感情を代表するセリフ。これが出たら絶対論理で反論してはならないのです。「全て」肯定で聞きます。

相談者は意外に話してしまえば、結構前後の論理に矛盾が出たり、自分はなぜこういう問題を持ち出したのかなど、整理がつくものです。そこを「うまく」冷静な結論に持っていくことがあっせんの醍醐味かも知れません。なにしろ裁判で争えば、法的には労働者が強いのですから確実に負けます。

相談者は感情論をまとめて攻めてくる場合が多いのです。これを1つ1つ積み重ねて各論化して解決するという辛抱強い対処が必要です。

労務問題は一方的に良い方が悪い方を裁くとならないのが、難しいところです。判決書もありませんし、カネで解決するならしたいところです。しかしそれでは根源は何の解決にもならないのです。「あいつがゴネてこれだけもらったのならオレも」ということになります。そんなお金は払えません、ということであれば、時間をかけるしかないのです。

まあ何もやったことのない新人がこの仕事でやっていくには経験しかないようです。ここまで行くと法律論ではなく、感情論なのですから、学ぶことといったら心理や応対のノウハウのようなものでしょう。社労士なら判例の知識も武器になりますが、1回目の感情が高ぶって信頼関係のないところでは出さない方が良いようです。

民法の基礎事項

民法はあっせんの仕事を行うに当たって重要です。労働法に規定されていないコトは民法の規定によるものだからです。むろん、特定社労士は学問上の解説をするものではありませんから、実践的な内容が求められます。関係する主な分野を挙げますと、

1、契約法 : 日本の民法では口頭契約が有効。つまり、事実関係によって雇用契約が成立します。
2、不法行為法 : パワハラ、いじめ、嫌がらせなどの説得材料としてこの概念が用いられます。
3、代理 : 本人が意思表示下のと同様に扱われる。使者は伝達しているだけ。
4、時効 : 賃金支払と災害補償(労災除く)は2年、退職金は5年でほとんどを占めます。
5、信義則上の義務 : ウソ、だまし、抜け駆け、ペテンにかけないということです。
6、権利濫用行為 : 権限がないのに、あたかも当然の権限を持っているように見せかけること。
7、公序良俗 : 社会的妥当性のこと、「いつの時代の契約ルール?」というような感覚。

があります。ではこのうち、ここでは1と2について詳査してみます。

1、契約法
契約の成立は申込みに対する承諾があって成立する想定をしています。しかし日本の民法では口頭契約が有効です。労働契約書などは後の証拠になるということと、契約履行の心理的強制の効果があります。就業規則などの兼ね合いで、労働法の規定があります。民法のみでは混乱するからです。

労働契約に該当すれば、雇用契約は合意成立でなく、事実関係によって成立します。仕様従属性がなくても、経済従属性があれば契約が成立します。つまり、契約法の概念が通用しないのです。

民法の労働者の想定は明治17年ですから、日清戦争後の産業革命以後の近代的労働者の想定ではありません。ですから雇用契約の多くの事項では、民法の規定は適用されないことが多いのです。

2、不法行為法
紛争解決方法としては、損害の填補や公平な分担を実現するための制度として取り扱われます。労働条件、職場環境、職場人間関係、教育育成、昇進昇格、事業主手続不作為などが今後、不法行為として数多くクローズアップされてきます。これらのことは、労働裁判機能の欠陥により、不法行為事件として余り出てきませんでした。

不法行為の社会経済秩序維持機能 : 他人からの故意または過失によって、権利の侵害を受けた場合、その損害賠償を加害者に求めるもの。消滅時効は短期で3年、不法行為時点から20年となっています。

成立要件
1、就業規則、労働基準法、男女雇用機会均等法、安全衛生法などに違反した場合。
2、36協定の無協定状態での時間外休日労働、その他の協定状態での賃金からの控除
3、従業員代表不在による従業員代表との協定、就業規則変更、退職金減額、労働条件低下
は、不法行為が成立します。

不法行為の世界観 : 「過失責任主義」(加害者の行為に故意・過失の主幹直接的責任がなければ損害賠償義務がない)にある。故意・過失がない結果・原因責任主義で、間接的な加害者を見逃す、ということはしない。

不法行為の態様
1、刑罰法規違反行為 : 不法行為の上で、違法性の強いチャンピオン
2、取締法規違反行為 : 行政法上の違反
3、権利濫用行為 : 労働問題では「職権濫用」といわれている
4、公序良俗違反行為 : 特定の規範がないので、侵害行為の方法を重視し、違法性を導く一般条項として使用