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ADRの基本

ADR=裁判外紛争処理とは、文字通り、裁判システムにあえて乗せない紛争解決処理のための制度をいいます。特定社労士のあっせん制度は労働分野における裁判制度がほとんど機能していないところから、紛争調整委員会によるあっせん制度に付け加える形で設けられたADRの一種です。

つまり、裁判所の判断が個別企業の中で通用しないほどに労働裁判機能が形骸化したのです。いわゆる「普通の訴訟」というものは…
1、100対0の勝ち負け : 労使紛争は勝った負けたで割り切れない。
2、要件事実主義 : 当事者が持っている様々な条件を切り落としてしまう。
3、小前提の事実→大前提の法規範→判決という3段論法 : 筋書き通りでないと機能が作用しない。
4、自由意思の上に成り立つ : 労働紛争は「潜在意思」
5、請求権に成り立つ : 請求しなくても自然に生ずる権利も存在する。

この通りいろいろ問題がある訴訟に対し、ADRというものは、

訴訟の「対決」に対し、「調整」ということなのです。同意は法律に、和解は判決に勝るという概念を目指して行われるものです。

ちなみにセクハラ事件についてはあっせん制度の方が有利な結論を引き出せることが多いです。法廷では弁護士同士がアラ探しをすると、円満な解決が図られにくくなったり、セカンドレイプまがいのことが起きるからです。あっせん制度では当事者同士が会うことはありません。会えば感情がこみ上げ、これまた問題をこじらせてしまいます。

要するに
裁判は「取引」 : 利益のとりわけ、当事者それぞれにとって有利なケース設定つまり勝負!ということ
あっせんは「妥協」 : 自己主張を十分に行った歩み寄りつまり痛み分けということ
なのです。

訴訟上の和解は「取引」の延長です。刀折れ矢尽きたところで裁判官が持ち出しますから時間がかかるのです。あっせんは精神的負担や不満をかけずに、なるべく迅速に「妥協」を図る制度なのです。このことは労使双方に「経済効果」もあります。「取引」に経済効果はありません。

裁判はカネも時間もかかります。その両方ともかからず、プライバシーが守られるあっせん制度は、労働者側のみならず、事業主にとっても「待ちに待った」制度だったのです。