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山椒大夫の労務管理(上)

童話ですが、人身売買された家族再会のハッピーエンドの人情話です。その中には「山椒大夫」社長と「安寿と厨子王」従業員の興味深い労務管理手法が見え隠れします。

労務のハナシでは日本最古の「かぐや姫」に次ぐ古さではないでしょうか。関白藤原師実という実在の人物が出てきますから、900年ほど前のハナシになります。当時の「労務管理」とはどうだったでしょうか。

★『姉が言いつけられた三荷の潮も、弟が言いつけられた三荷の柴も、一荷ずつの勧進を受けて、日の暮れまでに首尾よく調った。』

安寿と厨子王姉弟は、新潟で人買いにだまされて強制労働させられることになりました。14歳と12歳の新入社員でしたが、仕事の方法が分かりません。試用期間も研修もあったものではありません。しかし良いヒトがいて、OJTしてくれたのですね。

山椒大夫がOJTするようにと、言い含めていて、「教導手当」を出していれば別ですが、そういうものはないようです。自然発生的にできた純粋な親切心からなるOJTが、新入社員を救ったのです。

★『 ある日の暮れに二人の子供は、いつものように父母のことを言っていた。それを二郎が通りかかって聞いた。二郎は邸を見廻って、強い奴が弱い奴を虐げたり、諍いをしたり、盗みをしたりするのを取り締まっているのである。』

この二郎氏は「山椒大夫株式会社」の人事部長のようなヒトです。こういうことは案外今の会社ではないような気がしますね。人事部長や営業課長という肩書きはあっても、こういうことはしません。

「取締役」とは案外こういうところを語源にしているのかも知れません。二郎氏は山椒大夫の息子ですから、権威はあります。取締役=権威=秩序の維持と考えれば、いわゆる会社の役員の役割が分かってきそうな気がします。

★『こら。お主たちは逃げる談合をしておるな。逃亡の企てをしたものには烙印をする。それがこの邸の掟じゃ。赤うなった鉄は熱いぞよ』

これは三郎氏の発言です。このヒトも「山椒大夫株式会社」の「取締役」ですが、二郎氏より荒っぽい取り締まりをします。まあ悪役ですが、そこは大作家森鴎外で、悪役だから悲運を辿った、と単純なストーリーにはなりません。

この「山椒大夫株式会社」首脳部は利益主義な山椒大夫社長と、荒っぽい三郎取締役、温和な二郎取締役でなっています。経営にあっては案外こういう構成がベストで、首脳部一人残らず聖人君子、もしくは悪党揃いでは事業として成り立たないような気がします。

(下に続きます)山椒大夫の労務管理(下)