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「ヒゲの木村」の作戦術

「ヒゲの木村」とは木村昌福(きむら・まさとみ)。太平洋戦争中の日本海軍の艦隊司令官です。立派なひげを生やしているので「ヒゲの…」といい、旧軍人で私の一番好きな人物です。この提督が活躍するのは日本が大分負けが込んできた時期ですから、余り派手な印象がないのです。しかし退勢の日本海軍の中で連合軍にひとあわ吹かせた実力はすごいものです。

中でも面白いのはキスカ島撤退作戦です。昭和18年、北方の孤島を占領したものの、制空権、制海権をアメリカ軍に奪われた中、5,000人以上の将兵を1人残らず助け出し、損害もなかった世界的な退却劇です。

成功した理由は、

1、アメリカ艦隊がたまたま補給のため、包囲を解いた。
2、そのとき島を包んでいた濃霧が1箇所だけ晴れ、そこへ艦隊が突入した。
3、気象班の努力で、濃霧が発生するタイミングを捉えた。
4、木村司令官の焦らないおっとりした性格。

99%の努力と1%の運ですが、ここでは司令官の性格が大きく出ていると思うのです。実は前にも一回、救出に向かっていたのですが、霧が晴れてしまい、「死を覚悟しています!行きましょう!」と迫る部下や上役を尻目に引き返しました。

そして、霧が出るまで悠々と碁を指し、気象班からの報告があるやすぐに2度目の出港をしたのです。その間のプレッシャーは相当なものがありました。勇敢な突撃を美とする当時の軍隊の雰囲気にとらわれなかったことが、作戦を成功に導いたのです。

しかし木村司令官は決して合理的な計算家ではありません。昭和19年末、日本海軍が最後に勝利した海戦も彼の指揮によるものでしたが、撃沈された味方の艦の生存者を危険な海域に留まって多数救い上げています。人情と計算天秤にかけるというよりは、人情がよい結果を生み出した、そういう感じがするトップです。