アスベスト被害の実務

石綿被害で謝罪、補償への道のりが付きました。

アスベスト被害も、元々ニュースになったところは補償に決着がつきそうです。しかし石綿を扱っていれば健康への影響が心配です。どこへ行けば良いのか、事後はどうなのかということをまとめました。

1、どこに相談するか?
2、健康診断は受けられるか?
3、医師に中皮種と診断された。労災の手続きは?
4、どこで石綿を扱ったか分からない。労災は降りるのか?
5、退職後でも労災は降りるのか?

1、どこに相談するか?
保健所、都道府県産業推進センター、労災病院です。

2、健康診断は受けられるか?
健康診断は都道府県労働局に健康管理手帳の申請をします。手帳が交付されれば、無料で定期健康診断が受けられます。この申請は事業所が倒産等により存在していなくても、失業中でも申請することができます。

3、医師に中皮種と診断された。労災の手続きは?
医療費は全額、休業補償は労働者なら8割出ます。請求書に必要事項を記入して医療機関または労働基準監督署に提出します。

4、どこで石綿を扱ったか分からない。労災は降りるのか?
分からなくても、最寄の監督署に申し出ていただければ、必要な調査を行います。その結果仕事が原因と認められれば、労災認定が受けられます。

5、退職後でも労災は降りるのか?
退職しても給付を受ける権利は変更されません。一連のアスベスト問題では、給付の時効(2年や5年)を超えて給付する方針です。

アスベストに関しては、いろいろな問題が噴出しており、今後、法を超えた対策が取られる可能性が大きいです。情報に注意してチェックしたいと思います。

恵まれた日本の労災制度

【中国】北京副市長「安全対策怠るな」労災事故、経営者を厳罰

お隣の中国では、炭鉱事故で死者が大勢出ているようです。中国の企業では、死亡者数が少なければ、問題ではないとする誤った考え方があるそうで、本日より、生産現場での事故により1人でも死亡した場合には、安全生産監督管理局に報告すること、となったようです。

では労災は、日本では…

1人死亡どころか、4日以上休業した労働者が出れば、労働基準監督署に「労働者死傷病報告書」を出さなくてはなりません。その書類に不備があれば、(というか最近は必ず来る)現場その他を調べにやってきます。

この報告は労災給付(治療費とか、休業補償とか)の申請と違って、提出期限は「なるべく早く」ということですが、出さないと文句が入り、疑われたりします。また、最近は「講習会に出て来い」という監督署もあります。労災を出さない予防教育というのも監督署の重要な任務なのです。

労災保険は年金や失業保険よりも財政状態が良いのです。労働災害そのものの件数の減少もありますが、こういう水も漏らさぬシステムに因るところも大きいのです。

労働者の保険に社長も加入!

労働者災害補償保険法(労災)には事業主も加入できる特別加入の制度があります。

労働者と同じ保険料でほぼ同じ補償が受けられる公的保険はメリットがあります。何といっても、労災で治療を受けると、健保のような3割負担がないのが良いですね。つまり医療費はタダなのです。

休業補償が6割に減るとか(一般労働者は8割)、事業主としての行為(銀行へお金を借りに行くとか)をしているときには降りないなどのデメリットはありますが、これに加入できれば民間の同種の保険よりはるかに安く上がることは確かです。

保険料は1年で、
1日の賃金(3,500~20,000)×365×労働者と同じ料率(最低5/1,000)
+労働保険事務組合の費用(社労士の顧問料)×12です。

”顧問料”は、この特別加入には「労働保険事務組合」という組織を通さねばならないための料金です。しかし社労士を通せば、”顧問料”として社労士としてのサービスを受けながら特別加入もできる、というものです。従って、労働者と比べてソンということにはなりません。

”あんしん財団”の給付

労災に代わる保険給付ということで、財団法人の運営する”災害補償共済事業”について調べてみました。社長さんの加入が簡単な労災保険のことです。

普通に言う労災保険とは「労働者災害補償保険法」の略で、原則として労働者しか加入できないものです。労働者は手続きは要りませんが、労働者と似たような仕事をする社長や個人事業主が入ろうとすると、いろいろ複雑です。労働保険事務組合なるものを通し、補償額を自分で決めて、それを役所に認定してもらって…、と役所も絡むだけにややこしくなります。

そこで事業主には自分には民間の保険を掛けているところも少なくありません。しかし民間の保険は税金が使われているわけではないので、労災と比べると割高になるのが当然です。

この”あんしん財団”の給付と、労災給付を比べると、

掛金  :財団は一律1人2,000円、労災は3,500~20,000円×23/1,000(一般的建設業)
医療補償:財団は一日2,000~6,000円、労災は全額。介護給付もあり。
休業補償:財団はなし。労災は8割。
死亡補償:財団は一律2,000万円。労災は遺族年金5~8か月分。
障害補償:財団は一時金15~2,000万円。労災は一時金と年金。
その他 :財団は災害防止、福利厚生事業あり。労災は就学援護や健康診断など。

補償としてはやっぱり労災にかなわないなという感じです。民間の補償は某外資系保険会社で1億の補償で定期に入ったとして、保険料は三百数十万になったりすることを考えると、やっぱり公的補償にはかないません。まあ純然たる民間保険は公的補償があってその上乗せとして積み上げる程度に考えたほうが良いでしょう。

この”あんしん財団”は”土木健保”などの総合保障的な半官半民の保険に比べると一層民間の比率が濃いような気がします。しかし普通の保険会社の商品に比べるとささやかではありますが、分かり易い制度体系です。公的補償の上乗せの1つとしてご検討されても良いのではないでしょうか。

地震が起こったときの給付

昨日午後4時半でしたか、パソコンに向かっていましたが、突然の揺れでした。十数秒大揺れし、余震もあり、20分ほどで収まったようです。倒れるものとしてはとっさにスチールラックの本棚を見ましたが、全く動ぜず安心しました。後ろに持たせかけるように設置しておいたのが良かったです。

事務所は全く被害なし。但し隣の幼稚園からは先生方が「キャー、ヒー」などと外へ飛び出してきて、黄色い声がしばらく外で続いていた程度です。お年寄りが縁側から転落し軽いケガを負ったのが、足立区の唯一の人的被害のようです。ただ、電車関係が検査のためダイヤが乱れ、交通機関に支障が出たのが最大の「被害」ですね。

もし私が業務中に今回のような地震で本棚の下敷きになったらどういう給付が行われるか。これは国民健康保険からの給付になります。事業主だから労災はダメですね。

では労働者なら労災は良いでしょうか?事業主の支配下に置かれ、業務と事故の関係があれば労災事故として認められます。問題は業務と地震の関係でしょう。

「天災」で労災が認められるのは「予測できる天災」という条件が必要だといわれ、地震のような突然来る不可抗力な災害はダメとされています。しかしそうともいえないところもあります。どういうことでしょうか?ここに3つの判例を比べてみましょう。

1、山頂での作業で、落雷で死亡…はげ山で、天候の変化が激しい場所で、雷の発生頻度が高かったので、労災として認定。
2、台風襲来時に、工場の建物の目張りをしていてガラスが割れて負傷…事業主の支配下になくても、従業員として当然期待されることなので、労災として認定。
3、トラック運転手が地震による高速道路の崩壊により被災…コンクリート構造上の脆弱化が現実化したものと認め労災として認定。

1,2は「予測できる天災」ですね。落雷の多いところなら雷も落ちるでしょうし、台風が来ればガラスも割れるでしょう。しかし3はナマズじゃあるまいし、予測はできません。しかし労災は降りています。

つまり作業方法や作業状況・仕事場の状況などが危険な環境下にあったため被災したなどといった場合に労災認定をすることとなります。個々のケースで判断することになるので、具体的には労働基準監督署に相談してみる価値はあるということになります。曖昧な基準ですので、申請のときは法的な「言い回し」で誤解を招かないようにしたいものですね。