1、就業規則の改定とは?

就業規則に関する全体的な診断では、
○ 取り組むべき施設の方向性 および、求める人材像を盛り込むこと。
○ さらに、その人物像について、どういう義務を求めるのか?
○ また、見返りはどうなのか?を盛り込むこと。
を診断させていただいております。

○ 就業規則改定の目的は…
就業規則を改定することで、組織の雰囲気が良くなり、働き易い環境ができることです。なぜこの会社で働くのか?何のために働くのか?働いた結果どういうものが得られるのか?そういう疑問が解消され、仕事に対するモチベーションが上がれば、社内の人間関係も円滑になり、仕事の目標に向けて関心を一本化できるでしょう。無論、それは法律に違反しないことが大前提です。

○ 注意点

単に、規定を改定するだけでは、「自分たちのことを分かっていない上司がこれを使えるのか?」という不信感が湧くと思います。どんな立派な制度やしくみを設けようと、それだけで職員は喜びません。従業員も参加した規則作りが必要です。また、作った後のコミュニケーションのしくみづくりも必要です。

以上の点と、御社の雰囲気、お聞きした問題を踏まえ、強く、豊かな組織を作りましょう。そこで、以下の4点について、①規則の変更、②具体的な行動に分け、就業規則の改定に関する具体的な提案をいたします。
(1) 施設の方向性 : 当施設の社会的役割
(2) 求める人物像 : 当施設の求める理想的な人物像
(3) 人材の義務  : 当施設に勤務する人材の果たすべきこと
(4) 人材への見返り: 当施設に勤務する人材への「心」の報酬

2、就業規則の改定(ビジョンと人物像)

○組織の方向性:短く、分かり易いスローガンで組織のビジョンを導きます。

① 規則の変更
就業規則の総則や服務の基本のところです。普通は「当たり前」のことしか記されていません。例えば、「与えよう!物でも心でも!」「お客様の笑顔を第一とする」といった分かり易い会社オリジナルの、短いスローガンを盛り込む必要があります。これは一連の組織の「骨格」というべきものです。

② 具体的な行動
スローガンを社長さんがお決めになっても構いませんし、従業員から公募しても構いません。必要なのは全員がそれを知っていて、理解しているということです。この場合、周知させる会合を全員参加で開きましょう。

○求める人物像:具体的に「良い行為」から、見本となる人物像を導きます。

① 規則の変更
服務心得のことです。例えば、「心を開く」「細やかなところまで気を配る」がどういうことか、具体的に盛り込むよう改正する必要があります。例えば朝「おはようございます!」とあいさつをするということなどです。また、禁止行為も、具体的にどういうことか、拾い上げる必要があります。
また人事の章では、新入社員の試用期間にどう教育するかのプロセスを明らかにする必要があります。だれが教育に責任を持ち、いつまでにどこまでのレベルを要求するかの基準を作りましょう。そして、賃金規程に教育のためのインセンティブを定めましょう。

② 具体的な行動
社長以下全員出席で、どういう行為が気持ちよくて、どういう行為が良くないか、はっきりさせましょう。そして、スローガンと合致させながら、まとめましょう。そしてそれに基づいて、服務心得、禁止行為を規定しましょう。

3、就業規則の改定(義務と”心の”報酬)

○人材の義務:無理ない労働条件で、人材の定着を図ります。

① 規則の変更
勤務のことです。従業員個人の事情と業務によって、単純作業と、経験の必要な業務の区別をはっきりし、個人に振り分ける仕組みを作りましょう。場合によっては変形労働時間制の取り入れも検討しましょう。

② 具体的な行動
従業員各人に部長・人事担当者が改めて個別に面接を行い、勤務時間、休暇、休業についてもう一度ヒアリングを行いましょう。

○人材への見返り:心の満足する報酬で、能力の自発的向上を目指します。

① 規則の変更
給与その他のことです。賃金については、成果報酬のシステムも検討しましょう。また、自然発生的なコミュニケーションの他に承認ノートや、掲示板、パソコンメールの活用などでのコミュニケーションを第2章の人事のところなどで、規定しましょう。また、表彰制度も「こういう工夫をした」「喜ばれた」という声をお客様からフィードバックするシステムを作り、頻繁に表彰を行うようにしましょう。そのためにはちょっとしたことでも表彰に盛り込むことが重要です。

② 具体的な行動
賃金規程の見直しを図りましょう。給料を倍にしても倍の働きにはならないし、100円減らしても働きが大幅に減ることがあります。会社のためになり、本人も納得する効果的な賃金規程の見直しを行いましょう。コミュニケーションのシステムは使いやすく、時間のかからないものを徐々に選びましょう。表彰制度は分かり易く、身近なものをやはり従業員からのヒアリングで造りましょう

就業規則は会社の憲法。しかし…

京都の大学で、就業規則が「なくて」不当な労働を強いられた!と外国人講師や非常勤講師が労働基準監督署にユニオン労組を通じて告発したそうです。
結果、大学には監督署から「就業規則不備」という内容で是正勧告が出ました。就業規則がないとは考えられない大きな大学です。

これは、どういうことなのでしょう?

就業規則は普通、「会社の憲法」で、作っておけば、会社の構成員全員が守らなくてはならないはずです。日本国憲法も原則として日本国民全員に適用されるのと同じです。

また就業規則は労働条件の最低を定めたもので、個人別の労働契約より強いものとされています。だから、例えば外国人が契約通り働いて、しかし就業規則により良い条件が書いてあれば、法的にはそっちに条件を合わせることになります。

しかし、現実はいちいち「この条件は契約、こっちは就業規則を適用する」という面倒な作業をするわけにはいきません。どうしても慣習上契約にしたんだからと、すべての条件で契約を元に働かせてしまうことになります。

そういうことを繰り返すと、就業規則と現実の契約はどんどん離れてゆき、しまいには「私のための就業規則が存在しない!」となるわけです。

こういうことを防ぐには、就業規則の前半に書いてあることが多い「適用範囲」に気をつけなければなりません。これが曖昧だと、すべての社員に同じ条件を適用することになり、極端な話、週1回しか出てこないパートさんに莫大な退職金を支払ったり、正社員並みの有給休暇を与えなければならなくなります。

就業規則は1冊に終わりません。パートさんや非常勤、契約社員の方などは別にもう1冊作らなければならないのです。日本国憲法は1冊の本になっていることが多いですが、会社の憲法は、何十年も改正しないというわけには行きません。労使双方のために必要なら何冊でも作りましょう。

法律に定められているといっても…

ある会社で、「残業手当が少なすぎる」と苦情がありました。苦情を起こした従業員の方は住宅手当や通勤手当を算入し、残業代を計算していました。社長さんは法律によって計算していることを説明しました。

残業代は割増賃金を支払うことになっているのは周知のとおりですが、では、その割増の基礎になる金額の範囲はどこまでになりますでしょうか?ここに入れなくて良い賃金の範囲は法律に定められています。

家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金の8つです。(”勝つべしジュリー”と覚える)

従って、社長さんの計算方法が正しいのですが、従業員の方は「賃金規程にそんなことは書いていない!」というのです。

確かに、法律的には法令>就業規則で、法令に書いてあれば就業規則でわざわざ繰り返す必要はないかも知れません。この場合は説明してあげればいいのです。

しかし、従業員の方すべてが法律を首っ引きで勉強した方ではないでしょう。お金の問題は切実です。ふとした感情のねじれが大きい事故を起こさぬとも限りません。ここで従業員の方が”言い負かされた”と感情的になることもあります。

ですから、残業代の計算基礎になる「1時間あたりの算定基礎額」は(基本給+上記の8つを除く諸手当)÷1ヶ月の平均所定労働時間と賃金規程に書いておけば、法律を知らなかった方の誤解を招く危険を減らすことができます。

この会社さんの賃金規程は”上記の8つを除く”が抜けていました。これを見た従業員の方はおかしいと感じたわけです。なぜ家族手当が入らないんだ?、この会社は出し惜しみをしているのではないか?などと思うわけです。

「法律は知らないものにも適用される」とは真実ですが、人を使うに当たって、厳しい真実をいかにソフトに伝えるか、ということも考えて良いのではないでしょうか?

法令は書き改めようがありませんが、法令の意思を個別の企業に軟着陸させるのに就業規則や各種規程は良い機会なのです。何といっても事業主が自分で法として”立法”できるからです。組織のボスが柔らかに真実を説く、というのが私としては「このボスの下で働きたい」という意識の芽生えにつながると思うのですが、いかがでしょうか?

規則のための処分か、処分のための規則か

「解雇厳しすぎる」と抗議が殺到した 東武鉄道の子連れ乗務の話です。

自分の子供を4分間、運転室に入れた父親の運転士の話です。「安全運行が使命の鉄道会社で、第三者を運転室に入れることは、危険を誘発しかねない規則違反」として、懲戒解雇になったようです。

昨今は公共機関の”たるんだような規則違反”が多い現状では、規則をちゃんと守らせるべしという論調が多いのも確かでしょう。鉄道会社の措置は理にかなっており、世間的にも受け入れられるべきものでしょう。

ではなぜこういう抗議が殺到したのでしょうか?抗議をした人々は全て”規則の何たるかを知らない無軌道人間”なのでしょうか?

私は違うと思います。「法律があるといっても、こりゃ厳しすぎなんじゃないの?」というわけです。法律の尊さを知った上で現実的な診断を求めたのです。運転士を弁護するところは、

1、運転士の情ではなく、子供のわがままである。
2、それを許したのは重罪ではあるが、ある程度の罰を経て、以後改めれば済む問題で、運転士としての資質に関わる問題ではない。
3、子供に対して親がクビになったという負い目を負わせることになる。子供のわがままを看過するのか、というが、人間的に完成されていない子供に秩序意識を求めるのは困難。

といったところでしょう。日本のファジーな、あいまいさを許す心は、今の価値観の多様化には大いに合っているのです。法律を厳格に適用すれば、いざというときに対処できないマニュアル人間を作り、不満が多くなります。○○王の圧政みたいなもんですね。法律を厳格に適用すればいいのなら、裁判所も裁判官も要らないでしょう。

みせしめとか、安全喚起というならもっと良い方法があると思います。規則を守るために処分するのではなく、処分する方法論としての規則でありたいですね。つまり、この場合、「本来なら規則に照らして免職ものだが、情状に照らして罪一等を減じる。以後気をつけて勤務するように」という風にするのです。

いわゆる「懲罰としての刑罰」でなく、「教育としての刑罰」を与えるのです。恐怖を与えるやり方は今ははやりません。教育してこそ、世の中良く方向に行くと思います。

おもしろい社内規則!

悲劇! コスプレ社員に放置プレイ

この会社の「就業規則」には、5回遅刻すると、「1日中恥ずかしい衣装を着て業務をこなすべし」という罰則があるんだそうです。写真を見ると何かぬいぐるみのハリボテのようですね。まだ適用された社員は1人だけだそうなので、そのときの写真でしょうか。

いや~久々に笑ってしまいました。しかも附則として、「誰もその姿を見て笑ってはいけない」というものもあるとかで…IT系の会社ですが、頭が柔軟ですね~。またこの会社には以下のような「装置」もあります。

グローバル・フレックス・プランニングの「スタッフリアルタイムステータス」

これは残りの元気はいくらいくら、というグラフだそうです。これはタイムカードのような役割も果たすんでしょうが、労務管理としてはこりゃリアルですね。「元気なし」ならどういう原因か直ちに対処できます。たとえ退社時間間際でも「元気一杯!」と言う事態も考えられます。

人間とはこういうものだという画一にはまらない、まさにリアルタイムの究極の労務管理。口の出しどころがないですね。こんな会社さんだと。

これからの就業規則にはこういう「面白さ」も必要なのではと思います。「コスプレ社員」などは面白いのですが、これで罰則を食えば2度と遅刻をすまいと心に誓うでしょうね。下手に減給だの罰金だの取り入れるよりは”後残りの良い”措置といえます。

規則にあれば、何をやってもよいか?

NOVAが40万支払い和解 降格の元講師

アウトラインはこうです。

○就業規則で講師と生徒との交際を禁止している。

○男性講師が、女子生徒と交際した。

○降格され、役職手当が支給されなくなった。

○この講師、出るべきところへ出る。

○交際くらいで降格するなよ、と弁護士会が横槍を入れる。

就業規則は事業主が一方的に作成できるものですが、条文に関しては、「公序良俗に反し、就業規則から削除するべきだ」と弁護士会から勧告されています。結局学校側が折れて40万円支払うことで和解しました。

この判例で注意すべきことは、

就業規則に書いてあるから何でも通じる、ではないということです。あまりにも「変な」規則はモメ事のもとになります。この判例の場合、講師と生徒の交際で以前モメ事があって、こういう規則を作ったのでしょう。

憲法に「恋愛は自由」などという項目はありませんが、今回はその過去のモメ事と、恋愛の自由とを天秤に書けた結果、恋愛の自由がやや上回ったということでしょう。こういう微妙な問題は、規則で縛るべきではありません。

教育で縛るべきです。なぜ恋愛がいけないか、経営者側がしっかりと論理を組み立てて、説得するべきでした。無論社内の雰囲気作りには時間もかかりますし、骨も折れます。説得材料を持たないのなら、最初からこういう縛りを付けるのはあきらめたほうが良いのです。

「恋愛しない人間」を雇うというのは一層の問題を起こします。たとえ気まずくても、ここだけは譲れない、という点は、規則でなく、コミュニケーションを持って徹底するべきでしょう。

就業規則と労働契約

就業規則と労働契約、同じようなものと認識することも多いかも知れません。はどちらかが揃っていれば良いという方もいらっしゃるようですが、この際両方の長所を生かして、活用されてはいかがでしょうか。

しかし法律的には労働契約>就業規則で、しかも、両方とも労働者に知らしめなければならないことになっています。契約書は労使双方が見ますが、就業規則は会社の金庫の奥深くしまわれていることも多いのではないでしょうか。

もっとも古典的な活用法は就業規則+辞令です。同じような仕事を大勢のヒトにさせるためには、就業規則で全てを定めておいて、辞令には「営業部社員を命ず」などと筆太に書かれていたりするものです。行き先しか書かれていなくても、他の待遇が全て同じなら、これでも良かったのです。

しかし、現在は社員の種類も、また同じ職種の社員でも、労働条件が違ってきたりするようになりました。ですから、就業規則は全社員に「当たり前」なこと、労働契約はその他細かいことという風に役割を分担する必要があります。

就業規則の章でみますと、
・総則―就業規則
・採用および異動―労働契約
・服務規律―就業規則
・勤務―労働契約
・定年、退職および解雇―労働契約、就業規則
・賞罰―就業規則
・給与―労働契約
・育児および介護休業―就業規則
・職務発明―就業規則
・安全衛生および災害補償―就業規則

これは、契約と規則、どちらに比重を置くか、というものです。会社によって条件は違うかもしれませんが、採用条件や働く場所、勤務時間や給与などはどちらかというと労働契約の方に力を入れます。

定年、退職および解雇が、労働契約、就業規則の両方になっているのは、退職に関する事項が労働契約の絶対的記載事項になっているからです。

また、服務規律や賞罰など、労働者以前に人間として当たり前なことは就業規則です。「これをやったらクビになるよ」というものは、憲法のような条文として書かれる方が、守ろうという気も起きるものです。

就業規則、どこが有効か?

就業規則を作るに当たって、就業規則のどこが有効なのか?一方的に事業主が作ることができる就業規則に、例えば「従業員は毎朝社長に土下座しなくてはならない」などと記載できるのかという素朴な疑問があると思います。

この例えでいうと、「否」です。判例により明らかになっています。就業規則の条文が拘束力を持つのは、「合理性を持つ場合に限る」ですから。

この説に近いものが「契約説」です。就業規則は労働契約の草案に過ぎないとする説で、従業員はその同意を与えて初めて拘束を受けることになります。つまり、”法律を知らないのに法律を適用されてたまるか”という説です。

これと反対なのが、

「法規説」です。就業規則そのものに法規範性を認め、一般の法律のように、知らなくても拘束力が生じるというものです。ドロボウの現行犯が必ずしも窃盗罪について諳んじているわけではないというのと同様、”知らなくっても法律は適用されるんだよ”という説です。

ところで学説としては、「契約説」です。しかし、それでは社内で規則を作っても、”知らなかった”と言い抜ける輩も出るでしょう。だから、合理性があれば、という網をかぶせるのです。

ですから就業規則の効力については、就業規則は労働契約の草案に過ぎませんが、従業員がその内容を知らなくても、合理性があれば適用されるよ、としているわけです。

規則・法律は何のために作る?

第三のビール増税のことです。これ非常に良くないですねえ。増税そのものではなく、その「ココロ」が最悪なのです。

以前発泡酒というものが開発されました。消費者に安くて美味しいビールを提供することに成功した発泡酒は大当たりしました。

これはなぜ生まれたのでしょうか?いわゆる普通のビールに増税がなされたために、税金のかからない方法で作れないかと模索した結果です。言ってみれば税制が技術革新を生んだようなものです。

ところが発泡酒は増税で、第三のビールを開発したら、今度はこのような意欲を根底から削ぐ税制改悪が行われました。今回の改正のポイントは第三のビール増税は消費者の反発を恐れ小幅にし、そのかわり「今後新しい税金逃れビールの開発を許さない」ことにあるようです。

「税金は取りやすいところから徴収する」という意地悪酷吏のようなやり口で、技術の成長も何もあったものではありません。決まりを作る側はこういう見方ではいけません。

あくまでも、背後にある人間、技術の成長が見込める規則・法律でなければならないのです。ビールなら第4、第5のビールが出るように現行の税制を残すのが道ではなかったでしょうか。

社労士としては就業規則に代表される各種規程に、ぜひ成長が見込める規程を盛り込みたいものです。単に残業代が出ない工夫、悪いことをしたら罰せられる懲罰を定めるのではなく、残業せずに仕事が片付いて、後は自己啓発に時間を当てることができ、懲罰を受けて本人が一層成長できるような意図を盛り込むことが必要なのです。

決まりというものもぜひ、ビール増税のように近眼視的にならないように、しっかりと作っていただく必要がありますね。就業規則も税制も、この点変わることはありません。

最新の就業規則の傾向

就業規則は、校則とか、刑法といったイメージがあります。つまり「ここが危ない」「これはするなよ」という、攻撃に対する防御、という感じですね。

ところが最近は、そういう防衛的なもののほかに、逆に儲けるため、従業員のヤル気を引き出す仕組みとしての就業規則が注目されています。どうやって利益を上げるのかという問題は難しいので、ここでは、遊び心の就業規則を見ることにしましょう。

「これはするなよ」という罰則は、やってしまうと戒告!減給!という暗いイメージがありますが、これを周囲には明るく、本人にはキツイお灸を据える、という効果を持たせるということも可能です。

例えば、

おもしろい社内規則!は、遅刻5回に付き、コスプレ勤務1日というユニークなものです。しかも周囲はこれを笑ってならないという附則付きです。私ならこれをやられればもう2度と遅刻はすまいと猛省しますね。

さらに良いのは、周囲への影響です。懲罰をやられれば本人もさることながら、周囲が気を使います。仕事の円滑さにも影が落ちます。しかしここまであからさまにやられると暗い雰囲気がパーッと散らされたようなイメージが湧きますね。笑いをこらえながら懲罰を受けた本人に仕事を頼む同僚の姿が目に浮かぶようです。

また、なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?―ヒト・モノ・カネを最大に活かす6つのヒントという本に、サッカーの規則を利用した賞罰制度が紹介されています。

違反行為…イエローカード。効力3ヶ月、重大な場合レッドカード
褒賞行為…ゴールドカード。効力1年、重大な場合プラチナカード

違反カードと、褒賞カードは相殺可能です。すごく分かり易い制度ですね。人事制度は分かり易ければ易いほど社員に膾炙し、効果を発揮するといいますが、こういう制度を入れて効果の上がる会社は多いのではないでしょうか。

暗くなりがちな世相ですが、こういうときに遊び心の就業規則というのはいかがでしょうか。

これでも立派な「就業規則」

ある八百屋さんが以下のような内規を作りました。

①当店の勤務時間は、午前8時半~午後9時で、店員はこのうち決められた9時間半を勤務し、1時間半を交代で勤務します。
②パートタイマーは同じ時間帯のうち、4~6時間勤務します。
③休日は隔週の水曜日と、予定表に定められた日にします。
④給料は店員は日給、パートタイマーは時間給で、25日締めで翌月10日に払います。

これだけ作って店に張り出したことで、2人の店員、1人のパートタイマーの方は比較的良く働くようになったということです。なぜこんな当たり前のことをやっただけで改善するのでしょうか。

これまでこの八百屋さんのご主人は、
○小僧を使う感覚
○教えてやっているんだという意識
で、これだけ作るだけでも大決心だったそうです。

しかしこの「内規」は経営者と従業員の約束の書です。これだけは守るという安心感が従業員に広がります。そりゃそうでしょう。これまでエンドレスに働かせる可能性もあったのに、枠組みができたのですから。私なら時間内、精一杯力を出そうと思いますね。

このように就業規則を作る義務のない10人未満の会社で、社内に問題がある場合、分かりきっていることでも整理して公表すると、社員の態度や働きが変わってきます。名称や内容は「内規」でも、これも「就業規則」と呼べるものであり、人を活かす規則足りうるものです。

「子どもの病気」で欠勤御免

就業規則の服務規程で非常に厳しい会社がありました。ホウレンソウの徹底はもちろんのこと、「タバコを吸い始めた女性は解雇することがある」「入社して1ヶ月で相当な線まで覚えよ」と、お茶の出し方、業務記録の方法まで厳しくしかも細やかに記されています。

そんな中で、以下のような条文がありました。
「小さな子が病気になったときは遠慮はいらない。本人の病気以上に欠勤しての看病を認める。家族あっての本人だから。」

うーん。これは社長の体験に根ざしたものでしたが、非常に温かい気分になれました。現在小さい子を虐待したり、襲ったりという事件が目立つ中、子どもに対する愛情が感じられる条文で、久しぶりに感動しました。

就業規則とは確かに法律であり、会社の憲法であり、法的に大丈夫かチェックするのが専門家の役割ですが、会社を発展させるものは決して法的論理のみではないのです。

社長本人は「社員自身は風邪ひいても出て来い!と言うんですがね」と照れ隠しか言っていました。でも、仕事をし、業務をこなし、利益を上げる、しかしそれ以外のところで人は感動し、仕事を続けていくのではないかと思います。そしてそういう思いと愛情を条文に表現するお手伝いをするのが、法律家としての範囲に留まらない社労士の任務ではないかと感じました。

法を守る会社の勝利(上)

創業したてで、資金も少なく、従業員も安いお給料で頑張っている会社がありました。その名は株式会社フレンチフリゲート。

そんな会社に、取引銀行の頭取の後継者たるその息子が遊びに来ました。この応接に粗相があれば、資金パイプは止まり、たちまち倒産です。この会社の名誉会長以下総出で気を使い、もてなしました。

しかし、大粗相が起こってしまったのです。社員がお茶を出すところで、熱いお茶をこの息子にぶっ掛け、大やけどを負わせてしまったのです!息子はすぐに病院に収容されました。社員はこの息子に個人的に恨みがありました。

会社は恐慌状態に陥りました。さあ会社が滅びないようにするにはどうしたら良いか?名誉会長は直ちに病院にお見舞いに伺いました。会社の幹部会は、とりあえずこの社員を即時解雇してしまうということに決定しました。そのことを総務部長に諮ると、彼は意外にも「即時解雇はできません」と言ったのです。

この会社の就業規則には以下のように記されています。
116条:名誉会長の一族に危害を及ぼしたものは解雇とする。
117条:その他のものに危害を加えたときは3ヶ月の停職とする。

この場合、117条が適用され、3ヶ月の停職にしかできないというのです。会長も社長も激怒しました。「何を言っているんだ!クビにして誠意を見せろ!」しかし総務部長は動じませんでした。彼の言い分は…

「116条を適用し、即時解雇にしたら、この会社では適切な法運用がなされないと、取引先から軽蔑されます。この生まれたての会社の将来の大計を誤るもととなります。この会社の法を犯すことは、対外的信用を失わせます。取引先はますますわが社を見下し、野蛮な会社としてもっと無理難題を押し付けてくるでしょう」

確かに他の会社でも、こういうケースでは117条の扱いになることが分かりました。しかし、現実は取引銀行はこの会社のライフラインです。銀行の担当者は言いました。「ほう、クビにはできないのですか?それも良いでしょう。しかし覚悟はしておいてください」

経理部長からは、「この社員に因果を含めて自主退社させてはどうか?」という意見も出ました。しかし、会長も社長もあくまで法に則って処分するという方針では一致しました。さあこの社員の処分と、会社の運命はどうなりますことやら!?(下に続く)

法を守る会社の勝利(下)

大切なお客様に怪我を負わせてしまった社員をクビにするかしないか?フレンチフリゲート社の運命ここに極まれり、というのが前回でした。結局就業規則の条文に基づき、社員は3ヶ月の停職になりました。

さあ融資が止まるぞ!社員を減らし、役員は無給で働くことも覚悟しました。そこへ、件の銀行から連絡がありました。「貴社の就業規則に基づくものならば処分に満足する他はない」…融資は止まらず、慰謝料さえ請求されませんでした。

原因はフ社の法を守る態度にありました。就業規則を作り、その法を守った会社に銀行が因縁をつけるのなら、この銀行が却って信用を失う、それが法というものだ、ということです。

フ社はこの後、法律によって公正に人事が扱われる、ということで、信用を増しました。その結果、優秀な人材が集まり、ますます発展する礎を築きました…

この話は私が聞いたり体験したものではありません。実際あった話をもとに、それを労務チックに作り変えたものです。その話とは…

1891年(明治24年)の「大津事件」の顛末です。ロシアの皇太子が来日し、警備の警官に斬りつけられて負傷したという事件です。司法の独立を守った、という逸話として紹介されることも多い歴史上のお話です。

日本にとって当時のロシアは大国です。この斬りつけた警官を死刑にするか否か、大いに論議されましたが、結局判決は無期懲役でした。その後日露戦争が起こるものの、憲法を作ってたった2年目のこの事件によって日本は法治国家としての対外信用を増したのでした。

その結果明治国家は、江戸末期以来の列強との不平等条約を改正し、近代国家への仲間入りをしました。法を守るということは、組織が立っていく上で、信用を築くことであることがよく分かりますね。

上記のたとえ話のオールスターキャストをご紹介してこの稿を終わりたいと思います。

フレンチフリゲート社…日本
取引銀行…ロシア
取引銀行の息子…ロシア皇太子(ロシア革命時の皇帝ニコライ2世)
お茶をぶっ掛けた社員…津田三蔵(サーベルで斬りつけた警官)
名誉会長…明治天皇
会長…伊藤博文
社長…松方正義(総理大臣)
経理部長…後藤象二郎(逓信大臣)
総務部長…児島惟謙(大審院長→最高裁長官)

就業規則…当時の刑法
解雇…死刑
3ヶ月の停職…無期懲役
因果を含めて自主退社…刺客を派遣して暗殺
融資が止まる…戦争